「死んでる?」「生きてる!」〜萬斎版『ハムレット』〜

フリンジメンバーのH.Kことひなたです。

3/8に世田谷パブリックシアターで上演中の野村萬斎さん演出版

『ハムレット』を観てきました!

萬斎さん×河合祥一郎先生ならではのエモい『ハムレット』で

フリンジ『ハムレット』への栄養補給はバッチリ👍🏼

生で観る事が出来てよかったです✨


これから私の知るだけでも3人のメンバーが観に行く予定なので、後日みんなでブログ座談会を企画中です。それぞれが感想をブログにあげて受け取り方の違いを楽しみたいので、みんなの感想も待ってます!他にも行く人がいたら一緒に話しましょう♪ 始まったばかりで、チケットもまだあるようなので是非行ってみてください!

3年メンバーへのマニアックな詳細レポは、ブログとは別に送るので、以下はネタバレと共にこれから観る予定の方は観てから読んで下さいね!

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「誰だ誰だ誰だお前は誰だお前は誰だ俺は誰だ?」


冒頭、天上から雨のように降り注ぐ台詞に

「そう!まさにこれが私の中の"Who's there?"」となり感激。


亡き父と母と恋人、妻、息子と夫、父と兄と恋人、亡き妹と父、親友…

主要人物の愚かな行動への原動力が、それぞれの大切な人への愛と信仰だったのだと

自然に感じることの出来る最高にエモい私の理想の『ハムレット』でした。

萬斎さんならではの和洋折衷の美しい世界観と台詞にデンマークやノルウェーの国旗がよく馴染んでいて、亡霊や旅役者たちも古典芸能風。

とにかく聞きやすくスッと心に届く台詞。

演出も解釈をこちらに委ねる曖昧なものではなく、ハッキリとその解釈を示してくれるので、長さを感じず気持ちよく観る事のできた3時間半でした。

冒頭の階段に横たわる裕基ハムレットを彷彿とさせる苦悩する萬斎クローディアスの横たわりシーンが、萬斎ハムレットへのオマージュ?と思ったり。


「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」

第3独白から、ラストの天の声


「死んでる…?」(ホレイシオ)

「生きてる…!」(ハムレット)


がすごく響いた。To be, or not to beからの、覚悟を決めて、全てを受け入れ

「生き」きったハムレット。名誉を守って欲しいと後を託した親友ホレイシオからの


「どうだい親友?約束は守ったよ!」


「ありがとう親友!おかげて(みんなの心に)生きてるよ!」


に聞こえてとても感動しました。ハムレットの最後の台詞「後は沈黙」と死に向かう直前の

覚悟を示す「雀一羽落ちるも神の摂理…覚悟が全てだ。」がこんなにスッと入ってきたのも初めてでした。

フォーティンブラスによって、礼砲の中、民衆に弔われるハムレットの天に召されるような演出も新鮮だった。星のようにも民衆のようにも見える光の中で、天に昇っていくのか、民衆の中を進んでいるのか、その両方に見えるハムレットの弔い。

心を汚さず名誉を守り、やりきって生き切った満足の中での死と祝砲がマッチしていると思いました。音楽で表現されることが多い中、祝砲だけで表現されているのに原作の理解を深めさせてもらえたことにも感心しました。

お前は誰だ?俺は誰だ?

お前はどこだ?

誓え〜誓え〜

効果的な天の声からのメッセージと

国旗など布を駆使した数々の演出、

世田パブの高さある客席からの見え方に配慮した上下の舞台が本当に上手く機能していました。下の舞台上で語られる人物が、上の舞台で幻想的に表現されていて本当に美しかったし、亡霊やロズギルとの追いかけっこシーンでの距離の表現にもなっていて素晴らしかったです。


萬斎版のガートルードは、真実を知っていた。

毒杯も明らかに知っていて飲んだ演出。クローディアスの事も愛していたように見えた愚かな女だった彼女が、その事で心を汚し息子ハムレットを思いながら母として死んだ。

クローディアスは、ガートルードを失い、最後には覚悟を決めて毒杯を煽り愛する妻に寄り添いながら死ぬ。とにかく自分の犯した罪を恐れ懺悔したくても出来ない苦悩、王冠と妻を得た事に後悔はしていない。そのためにハムレットを排除しなければという意思がはっきりと示されていました。

これまでのクローディアスは、ハムレットに毒を飲まされて「殺される」が、今回、追い詰められていたとはいえ、自ら毒杯を飲んでガートルードの後を追ったのが良かった。野村親子のハムレットとクローディアス/先王は確かに血の繋がりを感じさせ本当にエモい。

ハムレットの「尼寺へ行け」もオフィーリアへの愛を感じたし、レアティーズも自らが王にと民衆に担がれても父と妹の復讐のために生き、最後に真実を知り懺悔をし、許しを得て死ぬ。

私は、オフィーリアの死が自殺なのか事故なのかがずっと気になっているが、どちらにせよ自ら死へ向かった(水が襲ってきたのではなく自分で水辺に行った)ので、キリスト教では正式に弔ってもらえないのだと墓掘りが言っていてなるほどなと思った。藤間さんオフィーリアは確かに狂ってはいたが、自らの意思で水辺は向かったのだと思えました。

このように、ハムレットだけでなく、主要人物それぞれが苦悩し、最後には覚悟を決めて死んで行く萬斎版『ハムレット』、行き当たりばったりの愚かな側面が強調される演出はあまり好きではないので、私の大好物の解釈で大満足でした。

でもこの場合、王と王妃は自殺となり先王同様地獄行き?オフィーリアは?

懺悔し互いに許しを得たハムレットとレアティーズは天国へ? それが疑問じゃ。


ロズギル版「ややこしや」も生で見られたし、

ひたすらエモいと感動する中でも、冒頭の客席へのライトと最後の天に召されていく演出が

一瞬「キャッツ!?」となって個人的にツボでした。

歌舞伎風味の旅役者さんたちの旗の地球座→グローブ座の遊び心を感じて嬉しかったです😄

キャストは、ほぼ『子午線の祀り』メンバー。

私の最推しである成河さんはいないけど、いたらどの役だったのかな?井上芳雄ハムレットのホレイシオをされていたので、ホレイシオイメージだけどなどと考えつつ…


以下はそれぞれの役と役者さんについて

◎ハムレット: 野村裕基さん

清潔感に溢れる若々しく優しい王子でその苦悩と覚悟が切なかったけれど、吹っ切れてからもやはり清廉だった。門番や旅役者たちとのやり取りからも民に慕われている王子だとわかり、墓掘りとヨリックのシーンから、オフィーリアの死を知った瞬間の激情へ変わる姿もとても自然で一貫性のないはずのハムレットが一貫性のある終始野村裕基さん23歳、等身大のハムレットに感じられとても好印象でした。

◎クローディアス: 野村萬斎さん

萬斎さんクローディアスは、徹頭徹尾ガートルードを愛する愚かな男。王冠や財産への欲はもちろん、信仰心から自分の犯した罪に怯えながらも愛する女性を得たことに後悔はしない。とても人間らしい苦悩するクローディアスでした。萬斎さんが素敵すぎるので凄みある悪役クローディアスを憎めない。

◎ガートルード: 若村麻由美さん

若村さんのガートルードもとても人間的で素敵でした。息子の苦悩を理解できず、3人の男から愛された愚か女として、あっけらかんと存在していた前半と、疑問を感じだし手紙で真実を知ったであろう場面から自らの意思で毒杯を煽るまでの後半への繋がりがとても自然で彼女の苦悩もしっかり心に届きました。愛する息子と夫の狭間で悩み最後には母として戦って死んだ意思のあるガートルード。これまで、王妃への手紙はオフィーリアの死に様が書かれていてそれを読んで皆に説明しているのだと思っていたけど、今回は王妃自身がオフィーリアの死を目撃して、その後でハムレットからの自分宛の手紙を読んで夫に疑念を抱くという表現だったのでそうだったんだ!と驚きました。

◎オフィーリア: 藤間爽子さん

藤間さんオフィーリアも大人たちに翻弄されながらも自分の意思をしっかり持っている魅力的なオフィーリアでした。儚さはあまり感じなかったけれど、溺れるシーンがさすがの藤間さんだけあって、幻想的な日舞で表現されていて素敵だった。狂気の中の花言葉のシーンでは、何も持っていないのにもかかわらず、繊細な指や視線の動かし方で、花が確かに見えた気がしたし、花を投げられたクローディアスにも(萬斎さん受けの演技)確かに当たってた。知的な雰囲気のオフィーリアだったから、狂った時の兄の台詞「知恵を失ってしまった」がしっくり来た。そしてハムレットのようなフリではなく過度な狂気の演技はないのに、確かに狂っていた。藤間オフィーリアも自分の意思で水辺へ向かったのだと思った。若草色と白の衣装がイメージぴったりで可愛かった。

◎レアティーズ: 岡本圭人さん

岡本圭人レアティーズも清廉で好感の持てる兄。兄妹愛が美しかった。ラストの決闘シーンは、これまで唐突にハムレットへ許しを乞うことに違和感を感じることが多かったが、今回は、真実を理解して瞬時に懺悔したのだとよくわかった。家族を失った喪失感と怒りから決闘までの疾走感、死に際の演技も殺陣も見事で、ハムレットもこの一家を不幸にした事を悔いていたが、2人とも後悔はなく、潔く死んだのだなと。ローマ人のように共に死にたいと言ったホレイシオに後を託して…。岡本健一さんのDNAここにあり。

◎ポローニアス: 村田雄浩さん

ポローニアスは、人の良い忠臣、愚かな老人として存在していて、忠臣だからと言ってたけどなぜ民に人気がある優しい王子と娘の交際を頑なに反対しているのか不思議だった。厳つい村田さんがちょこまか道化を演じるのが楽しかったが、娘への圧は凄かった。

◎ホレイシオ: 釆澤靖起さん

ホレイシオは、これまで忠臣イメージが強かったけれど、萬斎版は、衣装も含め

原文通りザ・学者で、いつでもハムレットの無二の親友という立ち位置だったのが良かった。「主人への尊敬と忠義」的なのも好きだけど、「無二の親友」という立場の方が、ロズギルとの浅くて薄い関係との違いが際立っていたし、ラストの葬列を見送る姿や「死んでる…?」の問答もグッときました。リアル17歳差を感じさせない素敵な親友でした。

◎墓掘りはなかなかのインパクトで、布を上手く使った場面転換のコロナを絡めたコメディ演出も良かった。ポローニアス/墓掘り役の村田雄浩さんの顔面が強すぎて、あなたの死を悼んで狂った娘の墓よ?笑とちょっと思ってしまった。

これらはあくまでも私個人の感想なので、後日座談会でみんなとの受け取り方の違いを楽しんでみたいです!

長々お読みいただきありがとうございました😊


英語演劇 all-female 『ハムレット』

SEISEN UNIVERSITY Department of English Language and Literature all-female Hamlet Official Blog