上演台本について
こんにちは、教員の米谷です。新4年生達と春休み中ずっと話し合いながら、『ハムレット』の上演台本を作りました。「決定版なき台本」とか「テクスト自体がパフォーマンス」である、とはよく言ったもので、こんなにも「出来上がった実感」を持てない台本も初めてです。これまで上演台本を作って来た方達のご苦労の末端を窺い知る機会にもなりました。
なぜ「決定版」がないのか?のお話。『ハムレット』には、1603年のファースト・クォート(Q1)、1604年のセカンド・クォート(Q2)、1623年の全集版ファースト・フォリオ(F1)と、複数の刊本があります。大事な台詞が「この版にはあるけれどもあの版にはない」というようなことがありまして、例えばハムレットの有名な「デンマークは牢獄だ」という台詞は、F1 にしか出てきません。よって上演で使われるのは、Q2とF1を合成した台本が多いです。(たまにQ1ベースでやっている上演もありまして、例えばKUNIO11『ハムレット』2014年、あれはQ1です。)
本文校訂をしている書誌学者たちから見ると、こうした所謂「合成台本」の概念は、あまり評判がよくありません。(版本に関する考え方や各版の性質についての話は、長くなるので、ここでは割愛します。)けれども、よい台詞を網羅しようとすると、複数のテクストを合成するしかないのです。書誌学の先生の、あの苦いコーヒーを飲んだ後のような顔がちらつきながら、コレを作りました。表紙は4年生のA.S.さんデザインによるもので、中身はArden 3版と松岡和子先生訳の対訳となっています。
新学期のガイダンスで他学科の学生さんへのお誘いも行い、セレクション応募者もたくさん来てくれています!嬉しい。某「武蔵野デザイン」をマネて作ったチラシがコチラ。やはり本家本元には遠く及びません。
0コメント